羽休みに娯楽を

読書、主に小説の感想を上げています。たまに、漫画や映画等も。

臨床探偵と消えた脳病変

臨床探偵と消えた脳病変 (創元推理文庫)

 

粒揃いの短編集でした。

各話の構成が素晴らしくて、物語に入って、出るときまで計算されているようでした。

表題作はミステリーズ新人賞で何度か読んでますが、それでも味わえる奥深さがありますね。

表題作以外も良かったです。

 

医療ミステリーですが、良い感じに重たさがあって話の締めくくりが後に残る感じがします。

解説が米澤穂信先生なのも納得。

 

各話に登場する医師を見ていると病気と向き合うためには原因となることを考え続ける誠実さが必要なんだなと。また、探偵役の西丸さんの存在が良かったです。

病気だけでなく、患者自身も見るのは素晴らしい。

 

医科大学の脳外科臨床講義初日、初老の講師は意外な課題を学生たちに投げかけた。患者の脳にあった病変が消えてしまった、その理由は? 正解者には今期の試験においてプラス50点を進呈する、というのだ。一向に正解にたどり着けない中、西丸豊という学生ただ一人だけが意外な真相を導き出す――。選考委員が絶賛した第11回ミステリーズ! 新人賞受賞作「消えた脳病変」他、臨床医師として活躍する後の西丸の姿を描いた連作ミステリ集。現役医師がソリッドな謎解きで贈る、“臨床探偵"西丸豊の推理。『片翼の折鶴』改題文庫化。

ホテルジューシー

ホテルジューシー (角川文庫)

 

真面目で働き者の主人公・ヒロが沖縄で一夏を過ごしていく。

沖縄の緩い雰囲気に戸惑いながらも、馴染んでいこうとする姿勢は良かったです。

 

働くうちに、自由な同僚に振り回されたり、迷惑な客に出会ったり、見捨てられない人を見つけたり、人の悪い部分を見たり、見逃せないことを知ったり、濃い日常を過ごしているのが分かる。波瀾万丈なバイト生活だったが、最初と比べれば、確かな成長を遂げていくのかが分かる。

辛いこと、良いこと、経験を糧にしていくのは大事なこと。

 

結局のところ、人はそれぞれの尺度で生きていて、介入するものではないのが大人だが、ヒロはまだ知らないことがたくさんあるが、人を見捨てないのは良いことだ。

 

緩い雰囲気とピリッと締めるところ、メリハリが効いていて、ハッとさせられる場面が多々ありました。

 

大家族の長女に生まれた天下無敵のしっかり娘ヒロちゃん。ところがバイトにやってきた那覇のゲストハウス・ホテルジューシーはいつもと相当勝手が違う。昼夜二重人格のオーナー(代理)や、沖縄的テーゲー(アバウト)を体現するような双子の老ハウスキーパーなど規格外の職場仲間、さらにはワケありのお客さんたちにも翻弄されながら、ヒロちゃんの夏は過ぎてゆく―南風が運ぶ青春成長ミステリ、待望の文庫化。

幻告

幻告

 

五十嵐律人先生の勢いが止まらない。

デビューして以降コンスタントに作品を発表していくたびに作品を書く腕が上がっているのが分かる。

今作はお得意のリーガルドラマにタイムリープ要素を入れていて、今まで見たことないような作品に仕上がっていました。

主人公・傑が父の冤罪を晴らそうと過去で行動することで状況は悪化する。

一体、なぜ?と読み進めていくと明かされていく真実には胸が苦しくなる。人間関係が入り組んでいて、人の負の感情に当てられていきますが、しっかり人の善なる心も描いているので、救われます。

 

皆が救われるように、傑が諦めずに行動していった結末には暖かさがありました。

 

裁判所書記官として働く宇久井傑(うぐい・すぐる)。ある日、法廷で意識を失って目覚めると、そこは五年前――父親が有罪判決を受けた裁判のさなかだった。冤罪の可能性に気がついた傑は、タイムリープを繰り返しながら真相を探り始める。しかし、過去に影響を及ぼした分だけ、五年後の「今」が変容。親友を失い、さらに最悪の事態が傑を襲う。未来を懸けたタイムリープの果てに、傑が導く真実とは。リーガルミステリーの新星、圧巻の最高到達点!

死神の浮力

死神の浮力 (文春文庫)

 

前作がイマイチだった記憶があるが、今回は長編で、1冊丸々調査に使ったのが良かったのかもしれない。

千葉さんの独特な雰囲気、異様な知識が登場人物を振り回すのが痛快でした。

娘を殺された夫婦が復讐を企てるもので、娘を殺した犯人がまた姑息で悪党。それで知恵が回るのが厄介。しかし、死神・千葉さんの不思議な能力でなんとか収まる。もはや千葉さんへ突っ込む気力がなくなるくらい、夫婦と千葉さんの関係が出来ているのも良い。

 

千葉さん以外にも死神が出てきて、情報共有は興味深い。意外?にも千葉さんは働き者だった笑

それでも死は見送らないドライさがまた良い。

 

散々、犯人に振り回されて、もう、犯人は罰せられないのかと思ったが、これ以上ない罰が下って溜飲が下がりました。まさか、あそこが伏線になるとは思いもしませんでした。

また、犯人に娘が一矢報いたのは最高でした。使い方がうますぎる。

 

始まりから終盤まで暗い場面が多かったが、締めが爽やかだったのが救いでした。

 

 

 

娘を殺された山野辺夫妻は、逮捕されながら無罪判決を受けた犯人の本城への復讐を計画していた。そこへ人間の死の可否を判定する“死神”の千葉がやってきた。千葉は夫妻と共に本城を追うが―。展開の読めないエンターテインメントでありながら、死に対峙した人間の弱さと強さを浮き彫りにする傑作長編。

小説版 であいもん ~雪下に春を待つ~

小説版 であいもん ~雪下に春を待つ~ (富士見L文庫)

 

であいもんの1巻に入るまでの内容で、原作好きにとっては見逃せない小説です。

 

一果が緑松に来た頃のエピソードは原作にない部分なので、読めて嬉しいです。

父・巴が離れていき、心細かった一果を包んでいく緑松の面々の暖かさが描かれていて、一果を守っている感じが堪りません。優しさよ。

 

一果が緑松を継ぐといった流れも知れて良かったです。一果なりに考えた末の決意だと分かって、良いエピソードでした。

 

巴が一果と離れた際の心情が描かれていましたので、原作を10巻まで読んだ後に読むのが良いでしょう。

 

人の心を和菓子が繋ぐ――大人気コミックス『であいもん』が小説で登場!

ある雪の日、父の巴に連れられ京都の御菓子司『緑松』に預けられた小学三年生の雪平一果。
寂しさから頑なになった一果の心を、緑松の人々の優しさと和菓子の甘さがほどいていく。
店を手伝う一果は、職人が想いを込めた和菓子が繋ぐ人々の絆を知り――「私が、この場所を守りたい」。
上京したまま帰らないという一人息子の和に代わって、緑松を継ぎたいと思いはじめ……。
大人気コミックス『であいもん』原作・浅野りん監修のもと、もう一人の主人公、一果のオリジナルエピソードが小説になって登場!

スパイ教室08 《草原》のサラ

スパイ教室08 《草原》のサラ (富士見ファンタジア文庫)

 

灯チームが絶対絶命。

これまでとは違うスリルがありました。

クラウスは動けず。大半のメンバーも動けない。そんな中で奮闘していく様子は目が離せなくて、最後の最後までハラハラしました。

 

白蜘蛛の狡猾な罠を掻い潜った秘策にはその手があったかと唸りました。

騙される快感がありました。

白蜘蛛の弱いからこその動きはいやらしかった。

中々の強敵でした。

 

今回、スポットが当たったサラの凡人で優しい性格であるがゆえのスパイとしての生き方は今後が楽しみでした。

 

次巻からどう展開するのか気になります。

 

 

落ちこぼれの少女が、スパイの世界で生きる理由。

『蛇』の悪夢は続く。謀略の果て、CIM内の裏切者を暴き出した『灯』。だが、その代償はあまりにも大きく、チームは半壊、モニカも一人全ての罪を被り安否不明に。絶望的状況に誰もが諦めを抱いたとき、『灯』の落ちこぼれ――サラが声を上げた。
仲間たちを救う唯一の方法は、全ての元凶である宿敵『白蜘蛛』を捕えること。無謀と知りつつもリリィ・ジビアとともに奔走するサラの元に、ある情報がもたらされる。それは、壊滅したはずのスパイチーム『鳳』が蘇ったというもので……。
『自分は、仲間を誰一人として死なせないスパイになるんです』
戦う理由は見つかった。今、最弱の少女の逆襲が始まる――。

モノクロの夏に帰る

モノクロの夏に帰る (単行本)

 

戦争について、もう起こらないと平和ボケするのではなく、年代を超えて、戦争があったことを引き継いでいかないといけない。

今作は戦争時のモノクロ写真が様々な人に影響を与えていく。

各話の登場人物がそれぞれの立場から、戦争に触れていくことで考えが変わっていく様子は、現実にありそうなギリギリの感情を描いていて、ハッとさせられることが多かったです。

 

ロシアとウクライナの戦争が起きているように、現代でも起こり得る危うさに気づくべきというところ。遠い場所のことだと思っていたら、いずれ日本も…と考えなければならなくなる貴重なメッセージが詰まっていました。

 

アメリカ目線の原爆投下については背景を配慮しなければならない。

 

主張がハッキリしている作品なだけに、どこまで深入りするかの匙加減が絶妙でした。

 

海の向こうでは、戦争で毎日人が死んでいる。 でも遠くない将来日本からは、戦争を経験した人がいなくなる。 まだ若い僕たちは、この事実とどう向き合えばいいのだろう。 「僕は祖父の戦争体験を捏造したことがある」 戦時中のモノクロ写真をカラーにして掲載した『時をかける色彩』という写真集が刊行された。祖父母ですら戦争を知らない二十代の書店員がそれを店頭に並べたことで、やがて世界が変わり始める。保健室登校の中学生、ワーカホリックのテレビマン、アメリカから来た少年と、福島で生まれ育った高校生。遠い昔の話のはずだった「戦争」を近くに感じたとき、彼らの心は少しずつ動き出す。 平和を祈る気持ちが、小さな奇跡を呼ぶ。 読み終えたとき、少しだけ世界が優しく見える感動の青春小説。