羽休みに娯楽を

読書、主に小説の感想を上げています。たまに、漫画や映画等も。

#塚森裕太がログアウトしたら

#塚森裕太がログアウトしたら (幻冬舎文庫 あ 79-1)

読んでいて、胸が詰まる思いでした。

タイトルと作品のテーマに惹かれて読みましたが、性にまつわることから始まり、個人の問題に踏み込むのが魅力的でした。

主人公・塚森裕太が同姓愛者だと周囲にカミングアウトし、様々な人に影響を与えていく。

苦しむ人達の葛藤を密に描いているから、読んでいて寄り添いたくなる。苦しみから抜け出していく、跳ねる瞬間というのが非常に美しく思いました。

 

様々な視点から見る塚森裕太と実際の塚森裕太は乖離していて、タイトル回収する最後は天晴れでした。

誰だって仮面を持っているが、仮面が素を上回ると苦しい。

ログアウトした結果、様々な痛みが伴ったが、見える景色が変わったのは良かったのだろう。

救いで締められていたのは安心しました。

 

高三のバスケ部エース・塚森裕太が突然「ゲイ」だとSNSでカミングアウトした。騒然とするも反応は好意的。しかし同じ学校の隠れゲイの少年、娘をレズビアンだと疑う男性教師、塚森ファンの女子高生、塚森を崇拝する後輩は、彼の告白に苦しみ、葛藤する。それは「本当の自分」になるはずだった塚森も同じだった──。痛みと希望の青春群像劇。

プロトコル・オブ・ヒューマニティ

プロトコル・オブ・ヒューマニティ

壮絶な物語を浴びたようでした。

SF要素がありつつも本筋は息子と父の関係、ダンサーとしてのあり方が問われていたのかな。

 

主人公がダンサーとして致命的な怪我をして、AIに頼ることに。その過程で、人間の動きをAIに学ばせるために必要な人間性と再現性が必要なことが分かる。

しかし、対比して主人公の祖父が認知症になり、本来の姿から離れていく。残酷な現実と向き合うために、力を振り絞る主人公の姿は素晴らしかったです。

家族介護のシビアな現実も描き、苦境に立たされながらもパートナー、仕事仲間に支えられて踏ん張れて良かった。

途中、読むのが辛くなりますが、最後まで見届けなければと思いました。だって、献身的になっていくにつれて、光が刺してくるのだから。

 

伝説の舞踏家である父の存在を追って、身体表現の最前線を志向するコンテンポラリーダンサーの護堂恒明は、不慮の事故によって右足を失い、AI制御の義足を身につけることになる。絶望のなか、義足を通して自らの肉体を掘り下げる恒明は、やがて友人の谷口が主宰するダンスカンパニーに参加、人のダンスとロボットのダンスを分ける人間性の【手続き/プロトコル】を表現しようとするが、待ち受けていたのは新たな地獄だったーー。SF史上もっとも卑近で、もっとも痛切なファーストコンタクト。『あなたのための物語』「allo, toi, toi」『BEATLESS』を超える、10年ぶりの最高傑作。

2022年下半期おすすめの文芸作品

2022年下半期に読んだ文芸作品のおすすめを紹介していきます。

全体的に重めですが、読み終えた後は新たな気持ちと出会う感覚がある作品ばかりです。

 

・おすすめ作品

汝、星のごとく

付き添うひと

傲慢と善良

ペンギンは空を見上げる

君といた日の続き

死にがいを求めて生きているの

光のとこにいてね

嘘つきなふたり

タスキメシ 箱根

凜として弓を引く 青雲篇

 

そんなつもりじゃなかったのに…

互いに道を歩きながらも想いあっているのに、隣にはいない切なさは辛かった。

時の経過は残酷な程に試練を与えていく。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/08/04/210000

 

少年犯罪を取り扱う付添人という職業を扱っていて、子供達とその友人、家族の距離感や問題を描いていて、各話に登場する悩める人達の心からの叫びを大切にしているのが印象的でした。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/09/23/210000

 

最初は男女のもつれか?と始まりましたが、徐々に失踪した真実と真実の婚約者である架の過去や恋愛観、人生を追っていくうちに浮かび上がってくる傲慢さに怖くなりました。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/09/08/210000

 

 

思春期の葛藤と成長、そして希望が詰まっていて、心に響く成長物語になっていました。

心洗われるとはこのことか。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/09/19/210000

 

 

心が洗われて、下を向いたままではいられなくなります。最愛の娘が亡くなり、妻とは離婚。絶望していた主人公がある日、過去から飛んできた小さな少女・ちぃ子と出会う。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/10/20/210000

 

 

 

ゆとり教育、誰かと比較するのではなく自分らしさを、生きがい、やりがい、時代の流れによって変わらざるを得ない世の流れに翻弄される若者の胸中を掘り下げている。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/10/25/210000

 

 

少女と少女、家庭に振り回される少女2人が心を寄せ合い、離れて、また出会い、離れる。ままならない人生を描いていて、最後に掴んだ光には切なさと暖かさがありました。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/11/08/210000

 

 

ミステリ要素がありつつも、悩みを抱えている女性2人が殻を破る成長小説。

正しさでは拭えない不幸があり、それを分かち合えた2人の嘘つきに幸あれ。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/11/12/210000

 

 

 

選手を支える栄養士と現役の部員の視点を交互に織り交ぜて、箱根駅伝に出場して、目標を目指すのかを描いていて、どちらの立場を知っているからこそ、故障や襷などの事態には胸が苦しくなりました。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/11/05/210000

 

 

ギスギスといっても暴力とかイジメではなく、部員同士の精神的未熟さや視野の狭さから、上手く噛み合ってない感じが微笑ましくて堪らない。https://wing31.hatenadiary.jp/entry/2022/10/15/210000

 

 

処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな

処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな (新潮文庫)

 

久しぶりに読み返しましたが、良かった。

喪失を抱えた少年が思春期の悩みを抱えた友人達とバンドを組み、生きるための活路を見出していく。それぞれ事情があって、でも味気ない学校生活を変えたい意思を持つことで、周りから何言われようとぶれない強さ、団結力があって良かったです。

仲間の大切さがよく伝わってきました。周りに馴染めない人達が集まって、絆を深めていく様子は良いですね。心開いてぶつかり合えるのは貴重です。

 

大切な人の喪失を乗り越えていく主人公の最後は見事なものでした。また、回想で登場する彼女の優しさもグッときました。

 

ロックな生き様に惹かれます。

 

タイトルで回避して欲しくない作品です。

 

彼女は死んだ。そして僕らは、出会った。ねーねーねー。高校三年生の朝は、意外な声に遮られた。狸寝入りを決め込む僕に話しかけてきた同級生、白波瀬巳緒。そして、隣の席の、綺麗な声が耳に残る少女、御堂楓。留年し、居場所がないと思った学校のはずなのに、気づけば僕の周りに輪ができていく。胸はまだ、痛む。あの笑顔を思い出す。でも、彼女の歌声が響く。ほんのり温かいユーモアと切なさが心を打つ、最旬青春小説。

よるのばけもの

よるのばけもの (双葉文庫)

 

再読したら、1度目とは違った感覚になって読み終えられました。

インパクトは薄いかもしれないが、周囲を気にして生きていた主人公にとっては革命を起こしたんだなと。

学生の頃の夜は大人とは違う悩みや迷いを呼ぶ。

主人公・あっちーが想像が膨らみすぎて身動き出来ない。悶々としながらもうちに眠る葛藤を打ち破っていく様は見事でした。

学生ならではの閉塞感と鬱屈した感情を描いていて、胸が詰まる展開でした。

よるにばけものになるのも無理はない。

しかし、読み終えるときにはスッキリした気持ちになりました。

モヤモヤしながら生きるより、自分の意思を持って生きる方が何倍も良い。今作の鍵になる矢野さんには天晴れ。彼女は強い。特殊な人間ではなく普通の人間なんだよな。

 

夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて―。大ベストセラー青春小説『君の膵臓をたべたい』の著者が描く、本当の自分をめぐる物語。

15歳のテロリスト

15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

 

胸に突き刺さる物語。

少年犯罪を取り上げた名作。なぜ15歳の少年・篤人がテロリストになったのか。そこに至るまでのプロセスが切なくて辛い。

未成年が加害者なら罪を犯しても守られる。

では、被害者の気持ちは誰が守るのか。

心揺さぶられる題材を上手く扱っていました。

被害者家族と加害者家族が対面し、話し合っていたのは非常にフェアでした。

 

揺るがない決意を持って、テロを起こしてでも未成年犯罪について変えたいと願う篤人の行動は誰が否定出来るのか。

 

未成年の犯罪について、考えさせられる作品です。

ずっと消えない問題なのかもしれないが。

 

なぜ少年はテロリストになったのか――衝撃と感動が迫りくる慟哭ミステリー

「すべて、吹き飛んでしまえ」
突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。
少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて、少年犯罪被害者の会で出会った、孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか――? 進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方を晦ませた少年の足取りを追う。
事件の裏に隠された驚愕の事実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた――。

シャルロットの憂鬱

シャルロットの憂鬱 (光文社文庫)

 

とても癒される小説でした。

動物の愛らしさはなぜ想像しやすいのか。

 

元警察犬で大型犬なのに、臆病でズルい一面を持っていながらも愛嬌溢れるシャルロットにメロメロです。犬にまつわる問題をミステリ風味に仕上げていて、読んでいて飽きずに最後まで読めました。

飼い主、環境、家族の協力、などなど犬を飼ううえで欠かせない配慮を掘り下げていて、事件が起きるのも納得。解決後に見えるものは暖かい気持ちにさせられます。

 

犬を飼うということはどういうことか。動物は嘘つかないけど人間は嘘をつく生き物なんだよなと。

続編希望したいくらいハマりました。

 

シャルロットは六歳の雌のジャーマンシェパード。警察犬を早くに引退し、二年前、浩輔・真澄夫婦のところへやってきた。ある日、二人が自宅に帰ってみると、リビングが荒らされており、シャルロットがいない!いったい何が起こったのか。(表題作)いたずら好きでちょっと臆病な元警察犬と新米飼い主の周りで起きる様々な“事件”―。心が温かくなる傑作ミステリー。