表紙やタイトル、帯の推薦文などを見るだけで読みたくなる吸引力がありました。
売り出し方としては最高でした。
もちろん中身も素晴らしいです。
震災の影響で家族を失って、そのときに死神と取引をして喜び以外の感情を失ってしまった主人公の沖晴。
傷が治る、記憶力、抜群の運動神経、など感情を失って代わりに力を得て、喜びという感情しか見せないで生活をしていたが、余命1年を宣告されている音楽教師京香と出会っていくことで、喜び以外の感情をゆっくり取り戻していく。
確かな現実と不思議な能力が噛み合っていていました。
常に笑っているだけでなく、泣いたり怒ったり怖かったり、人として持っているものを改めて取り戻していく沖晴を見ていると、人はコントロールのいかない感情というのを持っているのがどれだけありがたいことなのかが分かりました。
沖晴が京香と過ごしいき、様々な体験を通して大切なものを受け取っていけたのは京香が寄り添ってくれたからで、京香の生き方や考え方も素晴らしくて、2人が過ごした日々を読むだけで幸せになれそうでした。
京香の死は決して無駄ではなく、関わった人達の中に残っていくんだと思うと救われる気がします。
沖晴が京香の死をきちんと乗り越えていく最後は見事でした。
人は喜びだけでなく悲しみなどの負の感情も抱えてこそ幸せを掴めるんだと、思い知りました。
辛いことがあっても、それを受け止めて自分は足を止めてはならないんだと踏ん張らせてくれるようでした。
この作品の中には人生を生きていくうえで必要なものが詰まっていました。
また読み返したくなるくらい浸っていたいと感じるものがありました。
(あらすじ)
2020年、最高の感涙小説が登場! 北の大津波で家族を喪った沖晴は死神と取引をした。 悲しみ、怒り、嫌悪、恐怖を差し出して独り生還したという。残された感情は喜びだけ。 笑うだけの不思議な高校生は、余命わずかの音楽教師・京香と出会い、心を通わせていく――。 ありふれた日常と感情が愛おしくなる喪失と成長の物語。