刀と傘の前日譚でしたが、またも胸が詰まるような畳み掛けが待っていて、侮れない作品でした。
前日譚って知って物語の導入に関する内容で油断してましたが、がっつり読み応えのある内容でした。
なぜ、犯人は切ったのか。
なぜ、その被害者だったのか。
なぜ、そんな事件が起こったのか。
ミスリードを誘うものだったり、情報が不足している状況から徐々に真相に近づいていく緊迫感があり、気になって仕方ない展開になっていました。
語り手で探偵役の鹿野の謎に対する嗅覚、調査が優れていて、だからこそ混乱する真相に意をつかれるような気持ちでした。
全てを知った後はただただ切なくなりました。
平和な解決は難しかったんだろうが、どうしても生きていて欲しかったと思わされるような登場人物の感情や背景が描かれていました。
有名な話の裏では…という形でどこにも残らないような形で幕を閉じるところがまた感情を揺さぶられます。
それにしても、この終わりから刀と傘にいくのは中々手厳しい展開ですね…
時は慶応元年。薩長同盟成立に向けて奔走する坂本龍馬は、京でようやく西郷吉之介を説き伏せた。しかしこの重要な時期に、ともに上洛した長州藩士・小此木鶴羽が斬り伏せられ、下手人は逃げ場のない場所から煙のように消え失せるという奇怪な事件が発生する。尾張藩公用人の鹿野師光は、事件の目撃者だという龍馬に呼び出され、下手人の捜索を依頼される。師光が追うべきは、藩を超えて小此木と友誼を結んでいたはずの薩摩藩士だった――デビュー作にして第19回本格ミステリ大賞を受賞した『刀と傘』前日譚にして、著者初となる長編ミステリ。