羽休みに娯楽を

読書、主に小説の感想を上げています。たまに、漫画や映画等も。

君の話

君の話 (早川書房)

 

夏に浸りたくなる作品なので再読しました。

久しぶりに読み返して、初めに読んだ頃は何て思ったのか気になりました。

数年前に一度読んだぶりだったので、忘れていました。

記憶って、いつまでも保持していたいなと思うけど、実際は難しい。

そんな記憶を題材にした作品で、記憶を弄れるようになった世界での恋でした。

記憶は良くも悪くも人が変えられるけども、思い出や感情までも意図して弄れるのは幸せなのかもしれない。

なかった記憶を現実にしようとする彼女の生き方、それを受け止める彼、2人の運命が交差する終盤は美しかったです。嘘だから良いんだ。

 

前半、後半で別れた仕掛けがあるのだが、それがまた良く効いてくる。

初版の帯にある、出会う前から続いていて、終わる前に終わっていたという言葉通りの展開で、どういうことだと思いつつ、読んで納得。

これは嘘から始まり、嘘を真にする純粋な恋に昇華してみせたのは見事としか言えない。 

 

 

 

二十歳の夏、僕は一度も出会ったことのない女の子と再会した。架空の青春時代、架空の夏、架空の幼馴染。夏凪灯花は記憶改変技術によって僕の脳に植えつけられた“義憶”の中だけの存在であり、実在しない人物のはずだった。「君は、色んなことを忘れてるんだよ」と彼女は寂しげに笑う。「でもね、それは多分、忘れる必要があったからなの」これは恋の話だ。その恋は、出会う前から続いていて、始まる前に終わっていた。