普通をこなせる周囲から浮いて、普通じゃない自分に苦しむ田井中がふいに出会ってしまった。自分よりヤバイ気持ちを秘めている二木と。
最初は脅し合いで、探り合っていた2人だが、互いに自分の抱えている気持ちを吐き出しあってからは単純に心許せるような関係になっていったのは、互いに心のどこかで信頼できる人を見つけたかったんだなと。
多くの人が暮らす普通の生活になじめない2人がどうやって生きていくのか。
自分を殺す方法しか知らなかった田井中が自分を殺さずに殺したような生き方という今まで考えてこなかったことなどを二木から学んだりと不思議な関係でした。
優しくない現実に押し潰されそうになった終盤に訪れた最大のピンチにはどうなることかと思ったが、田井中が下した決断には拍手を送りたくなる勇姿でした。
きっと以前の彼なら踏み出せなかっただろう。
口を揃えて横並びになる普通という概念が押し付けてくるプレッシャーは苦しいし傷つく。
そんな世界でも、多数が少数を潰していく世界で生き抜いていく覚悟を持てた田井中と二木は凄い。
これから先も大丈夫だろうと思えました。
詰まるような空気が作品に漂っていたが、最後に視野が広がっていくような読後感で本当に良かったです。
生きていくうえで窮屈なことがある人は刺さる作品になっていて、読んだら辛いことがあっても自分を好きになり、生き抜いていこうと思います。
(あらすじ)
高校生・田井中広一は黙っていても、口を開いても、つねに人から馬鹿にされ、世界から浮き上がってしまう。そんな広一が「この人なら」と唯一、人間的な関心を寄せたのが美術教師の二木良平だった。穏やかな人気教師で通っていたが、それは表の顔。彼が自分以上に危険な人間であると確信する広一は、二木に近づき、脅し、とんでもない取引をもちかける――。嘘と誠実が崖っぷちで交錯し、追い詰めあうふたり。生徒と教師の悪戦苦闘をスリリングに描き、読後に爽やかな感動を呼ぶ青春小説。2019年ポプラ社小説新人賞受賞作。