久しぶりに息を殺して、ひたすら文章を必死に目で追う作品と出会いました。
本屋に行く人ならば、一度は目にしたことがあるはずの有名作。
どんなものかと読み始めましたが、あっという間に作品のもつ苦しさに呑まれて、最後まで惹きつけられる作品でした。
世間的には誘拐犯と被害者。
そう括られてしまい、苦しむ更紗と文の心理描写の圧迫感や揺らぎようが見事。
周囲の善意や悪意に生きづらさを感じながらも、生活を送る2人の日々は休まらない。
良いことがあればそれ以上の悪いことが起きる。なんてままならない世界なんだ。
もう放っておいてくれ、と余計な善意や心なき悪意に別れを告げる最後にはスカッと気が晴れました。
更紗と文が性や友情や世間体やなんやらとわづらわしい感情に振り回されずに、2人でいればいいと思えるようになったことに救いを感じました。
また、親の愛に悩んだ梨花や身体の欠損で苦しむ谷さんも幸せになってほしいです。
自分は自分。他人は他人。
当たり前なことなのに歳をとれば忘れて、無意識に人を傷つけている。そんな、無性に腹が立つことにたいしての抗議のように私は捉えました。
今時、ネット社会で相互監視社会になってきつつあることの問題が浮き彫りになっていました。
真実と事実、自分の目で確かめて、頭で考える必要がありますね。
(あらすじ)
あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。