魔女がとけたあともからタイトル変えて文庫化。
奥田先生の作品の中ではおとなしい雰囲気の作風でしたが、どの話も読み終えると肩の荷が降りるようなスッキリ感がありました。
この作者の文章、物語のテーマは人の心の痛みやそこからどうなっていくのかを親身に捉えているから、読み進めていくと胸と目頭がじんわりと暖かくなります。
人の精神の不調は目に見えるものではないし、比べるものでもない。その人が辛いと思ったら辛いんだ。
どの短編も語り手となる人が様々な悩みを抱えて生きていて、その悩みと向き合うのはしんどいかもしれないが、思いがけぬところで悩みが晴れていく様子を描いていて、皆が前向きに生きていこうとしていく姿に勇気を貰いました。
どの短編も良かったですが、1番は表題作かなと。思春期の子を持つ母の心の移り変わりにギュッと締め付けられました。彼方のアイドルという言葉が持つ意味もまた良い。
生きていて、これからを考えるきっかけになる作品でした。
妊娠した私に、周りは正しい妊婦であるよう求める/「理想のいれもの」。
顔の大きなホクロ、ついにコンプレックスから解放される日が来た/「君の線、僕の点」。
中学生の息子に髭、母親の頭には白いものが/「彼方のアイドル」。
誰の身にも起こりうる身体の変化、そこから見えてくる新たな景色。
前向きなメッセージが胸に心地よく響く五編。
(『魔法がとけたあとも』改題)