羽休みに娯楽を

読書、主に小説の感想を上げています。たまに、漫画や映画等も。

楽園の犬

楽園の犬 (角川春樹事務所)

戦時中の物語ということで骨太な作品になっていました。戦争を知らない自分からすると未知な世界だが、当時の人からすると当たり前だったんだろう。文章を通じて戦時中に生きていた人達の切実な想いが伝わってきました。

 

戦争という荒波に巻き込まれると人々の倫理観が歪んでいってしまう。戦争のための死を名誉だと思ってしまう。それは悲しいことだ。死は何が理由であっても死でしかない。それに気づけた主人公・麻田は素晴らしい。

病気のおかげでサイパンで働くことになった麻田が毒に触れながらも自分の心の核を離さなかった覚悟に胸に重たくのしかかってきました。

家族という守る場所がある人は強いということ。

 

最後の章で明かされる麻田の上司・堂本の意思には驚いた。それに対して反論する麻田の気持ちは胸が熱くなりました。

タイトルの通り、犬になっていたが、心は人であったのだと分かる結末に情緒揺さぶられました。

 

ただ、生きる。

そのありがたみを抱きしめたい。

 

1940年、太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン
日本と各国が水面下でぶつかり合う地に、横浜で英語教師をしていた麻田健吾が降り立つ。
表向きは、南洋庁サイパン支庁庶務係として。だが彼は日本海軍のスパイという密命を帯びていた。
日本による南洋群島の支配は1914年にさかのぼるが、海軍の唱える南進論が「国策の基準」として日本の外交方針となったのは1936年だった。
その後、一般国民の間でも南進論が浸透していった。
この地にはあらゆる種類のスパイが跋扈し、日本と他国との開戦に備え、海軍の前線基地となるサイパンで情報収集に励んでいた。
麻田は、沖縄から移住してきた漁師が自殺した真相を探ることをきっかけに、南洋群島の闇に踏み込んでいく・・・・・・。