羽休みに娯楽を

読書、主に小説の感想を上げています。たまに、漫画や映画等も。

オーブランの少女 文庫

オーブランの少女 (創元推理文庫)

 

デビュー短編集でこのクオリティーは凄い!

あらすじから女性の闇を描かれていそうで期待しでしたが、軽々と期待を超える1冊になっていました。

 

驚き、イヤミス、笑い、切実、ホッとする。短編集でそれぞれの話の余韻が様々で非常に良い。各話の謎はもちろんだけど、世界観やシチュエーションがいいので話ぬ惹き込まれて仕方ない。

1話ごとに違う世界を見せてくれる様で読んでいて、どんな仕掛けが待っているのかワクワクします。

登場人物の背景も練られているので、短編の短い間でもあっという間に登場人物像を掴むことか出来るのは大きいです。

 

個人敵にお気に入りは表題作と大雨とトマトです。

表題作はそうなるのかと繋がりが浮かび上がって終わるのが心地よい。

大雨とトマトはシュールなシチュエーションながら裏では…というのが大胆でクスッとしてしまう。

 

比類なく美しい庭園オーブランの女管理人が殺害された。犯人は狂気に冒された謎の老婆で、犯行動機もわからぬうちに、今度は管理人の妹が命を絶った。彼女の日記を手にした作家の「私」は、オーブランに秘められたおそろしい過去を知る……楽園崩壊に隠された驚愕の真相とは。第7回ミステリーズ! 新人賞の佳作となった表題作の他、異なる場所、異なる時代を舞台に“少女"という謎を描き上げた瞠目のデビュー短編集。

スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫

スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫 (集英社文庫)

 

スイーツを題材にしたミステリー。

謎も気になるが、なぜ不思議な出来事が起きるのか登場人物の秘められた行動を解き明かしていき、たどり着く真相が迷える高校生の救いになっているのが良いです。

主人公・菓奈が吃音があり、あまり人と関わらずにいたが、事件と出会っていくうちに変わろうとしていく姿にはグッときました。

菓奈の勇気が広がっていくのには心が温まりました。

 

青春、ミステリー、スイーツ、揺れる心情、全てが絡み合って、1話1話のエピソードが読み応えある話になっていました。明るいだけじゃなく、青春の裏側も描かれているからこそ、最後に前向きになっていく登場人物に心底勇気が貰えました。

 

生きていれば色々あるが、高校生のうちから悲観するのは早いかなと。

誰か自分の悩みに気づいてくれる人を見つけられると良いですよね。

 

高校生の菓奈は人前で喋るのが苦手。だって、言葉がうまく言えない「吃音」があるから。そんな菓奈が密かに好意を寄せる真雪は、お菓子作りが得意な究極のスイーツ男子。ある日、真雪が保健室登校を続ける「保健室の眠り姫」こと悠姫子のために作ったチョコが紛失して…。鋭い推理をつまりながらも懸命に伝える菓奈。次第に彼女は、大切なものを手に入れていく。スイートな連作ミステリー。

麦の海に沈む果実 文庫

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

 

理瀬シリーズ。

前日譚から気になっていた、三月は深き紅の淵をの本の正体。

曖昧な部分もあるけど、真相を知ると驚かされました。

怪しげな雰囲気漂う学園に理瀬が転入して、起こる不可解な事件の数々。ファンタジーな世界観とミステリー、そして理瀬のミステリアスな振る舞い、全てがカチッとハマる種明かしには呆然となりました。そうか、そうだったのかと受け入れるしかない。

最初から始まっていたのか。

仕組まれているような感じはありましたが、そういう裏があるのかと、伏線はあったんですね。

理瀬が青春している様子がありながらも、抱えていたものは想像を超えていました。

 

最後まで一気読みの不可思議な魅力が詰まっていました。

シリーズの続巻も集めます。

 

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)

 

素晴らしい人生逆転劇。

人生で上手くいかず、つまづいていた人達が集まって原因となったグループに反撃して、自分の人生を取り戻していく終盤には手に汗握る展開でした。

前半から中盤にかけて、人生で落ちぶれていく様子が描かれていて、胸が痛む。

だからこそ、いつまでも負け続けずに、逃げずに、立ち向かう姿を見せる登場人物の勇姿には目が覚める気持ちでした。

 

逆転劇の計画には驚きましたが、さらなる驚きが待っていました。

綺麗に騙された。違和感は感じていたが掴みきれなかった。

タイトルの意味も納得です。

 

今後の彼らに幸あれ。

 

人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは?息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末。

リカーシブル 文庫

リカーシブル(新潮文庫)

 

4年振りくらいに再読しました。

読み返していくうちに、こんな感じだったなと思い出していきました。

ぼんやりと覚えていた程度だったので、2度目でも真相を知った時は衝撃でした。

 

中学一年生のハルカが母の故郷に戻ってきて、次々と田舎ならではの風習に面を食らいながらも生活に馴染もうとする。しかし、弟のサトルがまるで未来予知とも言える言動を繰り返していく。

住民の不可思議な行動、街全体に覆われているような排他感がまとわりついていて不気味で、サトルの未来予知は何なのか、終盤まで霧に包まれている様でした。

古びた街の違和感とサトルの言動の真実を追っていくうちにハルカがたどり着いた真実には非常に驚かされた。緻密な計算で成り立っていた小説でした。

民族、地域に根ざした風習は簡単にはなくならないものだと思い知りました。

ミステリーとしての仕掛けは思い返せば、きちんと伏線を張られていたので思い至らなかったなかのが悔しい。

また、ハルカとサトルの喧嘩っぷりには最初はどうにかならないかと思うときもあったが、2人が家族である背景が重たく、ハルカが背負うものは大きくて、だけど家族だからと受け入れていくハルカに勇気が貰えます。

 

 

越野ハルカ。父の失踪により母親の故郷に越してきた少女は、弟とともに過疎化が進む地方都市での生活を始める。だが、町では高速道路の誘致運動を巡る暗闘と未来視にまつわる伝承が入り組み、不穏な空気が漂い出していた。そんな中、弟サトルの言動をなぞるかのような事件が相次ぎ…。大人たちの矛盾と、自分が進むべき道。十代の切なさと成長を描く、心突き刺す青春ミステリ。

硝子の塔の殺人

硝子の塔の殺人

 

何で今まで読んでなかったんだと悔いたくなるくらい面白かったです。

知念先生の作品をあまり読んでなく、スルーしてた自分を呪いたくなるくらい、素晴らしいミステリー作品でした。

本格ミステリーを好きな方には刺激があり、あまり詳しくない人は今作を読んで本格ミステリーに触れていきたくなるようなバランスでした。

名探偵の碧がかなり本格語りをしていて、鬱陶しさがあるのに目が話せない魅力がありました。

語り手が犯人という叙述トリックを上手く利用したトリックには唸りました。

読んでいてそうだったら良いなと願望を抱いていましたが、それに近い状況になったのは嬉しかった。

 

中盤くらいまで読めば犯人の目星が立つが、細かいトリックや隠されていたことはお手上げでした。

終盤の読者の挑戦状から先については圧巻でした。何層にも練られていた伏線が策略していて、参りました。分かった気になってすみませんでしたという気持ちになりました。

2段3段構えの構成で、種明かしが始まっても油断出来ない厚みがある物語になっているのは凄いです。

練りに練られたミステリーはこんなにも心揺さぶってくるのだなと思い知りました。

 

最後に誕生した人物を軸に続巻を読みたいなと思いました。

 

 

ミステリを愛するすべての人へ

当作の完成度は、一斉を風靡した
わが「新本格」時代のクライマックスであり、
フィナーレを感じさせる。今後このフィールドから、
これを超える作が現れることはないだろう。
島田荘司

ああびっくりした、としか云いようがない。
これは僕の、多分に特権的な驚きでもあって、
そのぶん戸惑いも禁じえないのだが――。
ともあれ皆様、怪しい「館」にはご用心!
綾辻行人

500ページ、一気読み!
知念実希人の新たな代表作誕生

作家デビュー10年 実業之日本社創業125年 記念作品

雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。
地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。
ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、
刑事、霊能力者、小説家、料理人など、
一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。
この館で次々と惨劇が起こる。
館の主人が毒殺され、
ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。
さらに、血文字で記された十三年前の事件……。
謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。
散りばめられた伏線、読者への挑戦状、
圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。
著者初の本格ミステリ長編、大本命!

ロング・アフタヌーン

ロング・アフタヌーン

 

シンプルなタイトル、雰囲気ある表紙に惹かれて読みました。

物語の始まりから、作中作の危ういけど惹きずり込まれる雰囲気が素晴らしくて掴みが完璧過ぎた。

誰が狂気を孕んだ小説を書いたのか、なぜ描くに至ったのが気になってしかたがなかったです。作中作と分かっていても胸を掻きむしりたくなるような悶々とした気持ちにさせられるが、読み進める手が止まりません。

 

編集者が後悔しながら生きていて、狂気を孕んだ応募作を読む事で心境が変わっていき、過去のことを思い返していく。

編集者も生きながら迷いがあり、後悔していたが、考えに触れてくる小説と出会うことで変わっていく。

 

編集者がとある応募作品を読んで、作家はその作品を描くに至るまでと、描き切ることで互いに化学反応を起こして共感を重ねていき、浮かび上がってくる2人の人生に胸が締め付けられました。

 

久しぶりにゾクゾクする読書体験をしました。小説か現実か、創作だと思いたいが、恐らくは…

 

新央出版の編集者・葛城梨帆の元に突然、原稿が届く。それは以前新人賞で落選した志村多恵からのもので、学生時代の友人が時を経て再会するところから物語は始まっていた。立場の違う二人の会話はすれ違い、次第に殺意が募っていく。「いっそのこと、最後にこの女を殺してやろうか」――。そんな物語の女たちの苦境に思いを馳せるうち、梨帆自身も忘れられない出来事と原稿内容がリンクし始める……。
私たちのシスターフッドがここにある、著者渾身のミステリー。