羽休みに娯楽を

読書、主に小説の感想を上げています。たまに、漫画や映画等も。

河野裕先生の新境地を読もう 昨日星を探した言い訳

昨日星を探した言い訳【電子特典付き】 (角川書店単行本)

 

河野裕先生が遂に単行本で作品を出すことに。

めでたい。

これからは、多くの人に河野裕先生の作品を知られていくのだろう。

河野裕先生の作品と言えばサクラダリセット、階段島のイメージが強いだろうが、今作がそのイメージを塗り替えていきそうなインパクトがありました。

 

今作は頑固で繊細な坂口と総理大臣を目指すほどの志しを持つ茅森が互いに意識しあい、次第に惹かれあっていき、そして袂を分かつ。

坂口と茅森がすれ違った大きな原因はとても切なくて悲しい。だけど、坂口の通した意思は見事でした。

そこに至るまでを過去と今の2人の視点を交互に見せていき、そこから最後に再び再会して、理解をすり合わせていく。

終始美しい感情のぶつかり合いで、文章を追っていくだけで自分の思考が洗われるようでした。

2人が頭の中で巡らせる倫理や愛についてはとても読み応えがあり、どれだけ言葉を尽くしても魅力を表せないものでした。

表紙やあらすじを気になった人、河野裕先生の文章が好きな人は是非読んでほしい作品です。

きっと気にいる台詞や描写があるから。

最後のページを読み切るまで決して油断出来ない小説でした。

 

もうどれだけ考えても頭の中で作品の出来事が巡ります。

本棚に置いて、いつでも読み返したい作品でした。

 

 

(あらすじ)

 

総理大臣になりたい少女とすべてに潔癖でありたい少年の純愛共同戦線! 

自分の声質へのコンプレックスから寡黙になった坂口孝文は、全寮制の中高一貫校・制道院学園に進学した。中等部2年への進級の際、生まれつき緑色の目を持ち、映画監督の清寺時生を養父にもつ茅森良子が転入してくる。目の色による差別が、表向きにはなくなったこの国で、茅森は総理大臣になり真の平等な社会を創ることを目標にしていた。第一歩として、政財界に人材を輩出する名門・制道院で、生徒会長になることを目指す茅森と坂口は同じ図書委員になる。二人は一日かけて三十キロを歩く学校の伝統行事〈拝望会〉の改革と、坂口が運営する秘密地下組織〈清掃員〉の活動を通じて協力関係を深め、互いに惹かれ合っていく。拝望会当日、坂口は茅森から秘密を打ち明けられる。茅森が制道院に転入して図書委員になったのは、昔一度だけ目にした、養父・清寺時生の幻の脚本「イルカの唄」を探すためだった――。 

 

落ちこぼれ天才竜医と白衣のヒナたち

落ちこぼれ天才竜医と白衣のヒナたち【電子特典付き】 (MF文庫J)

 

人形剣士は断ち切れないの次作は、幼女がドラゴンを癒していく医療ファンタジーだった。

前作はシリアスな感じでしたが、今作はゆるーく読めて、かつドラゴンを治療するということに熱意を注ぐ少女達の奮闘に心が踊ります。

言葉だけではなく、気持ちを込めて治療にあたる竜医というお仕事の尊さも素晴らしかったです。

 

竜と人が共存していてためには歩み寄っていかないといけない。

読んでいて、竜医というのは軽い気持ちではやっていけないんだなと。

そんな竜医に様々な欠点を持った少女達が目指していく。

それぞれの子に向き合って、育てていて良かった。成長していく姿にはホッとしました。

 

主人公の若虎は少女達に力を貸して、導いていくが、若虎も少女達に勇気を与えられるというシチュエーションは良いですね!

 

最後の集大成の試験や若虎が残していた後悔を拾うのは盛り上がりました。

 

竜も幼女も可愛いし、是非続きが読みたいです。

 

 

 

(あらすじ)

人間と竜――危うい共存関係を保つため、彼女らは竜と触れ合う。 

突如として人間世界に現れた竜と呼ばれる生物。 
彼らと共存するため、雛谷若虎は竜を治す医者【竜医】として類稀なる才能を発揮して活躍していた――竜災【ドラグハザード】が起こるその日まで。
史上最悪の医療ミスによって災害を引き起こしたとされ竜医界を追われ、事件から七年経った今でも災害跡地で孤独に暮らす。 
そしてある日、若虎の前に竜医を目指す三人の少女が現れる。 
彼女らの才能を見出し、若虎は竜医という存在に向き合いながら指導を始める……! 
鉄を食べてお腹を壊したり、火竜の炎で火傷をしたり……。竜ならではの症状に戸惑うことばかり……? 
前代未聞の竜×医療ファンタジー、ここに開幕!

 

 

楽園とは探偵の不在なり

楽園とは探偵の不在なり

 

斜線堂先生の孤島と館モノのミステリー。

題材が題材だけに作風が硬くなるかと思いきや、2人以上殺したら地獄に堕とす天使がいるというファンタジーさが作品全体に大きく影響を与えていて、不思議と読みやすくなっていました。

主人公の青岸焦はかつて名探偵と言われていたが、いまはその面影はなくなっていた。

そんな時に不思議な島に誘われ、事件に巻き込まれていく。

 

この作品は特殊設定の、2人以上殺したら天使に地獄に連れて行かれるということが上手く作用していて、動機や殺人方法が予期しづらくなっていて、謎解きをさらに難しくしていました。

ただ、読み終えてみるとヒントが確かに示されていて唸りました。

また、2人以上殺したらいけないということで、1人なら良いという歪む倫理観や正義感には考えさせられました。

天使が万能のようで万能ではないからこそ、善人が苦しむのは切ないです。

 

焦が過去の出来事に縛られながらも、彼の探偵としての仕事に救われた人間もいて、そんな人達が焦を再び探偵に戻すというのは人情味がありました。

 

孤島の事件を解決するとともに過去の暗い出来事を乗り越えて、探偵として復活した焦のこれからの活躍を祈りたくなりました。

そして、続きが読みたいと思う余韻がありました。

 

探偵が存在することで空虚な楽園は崩れていくんだろう。

 

 

 

(あらすじ)

二人以上殺した者は"天使"によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦(あおぎしこがれ)は「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集まる常世島(とこよじま)を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。かつて無慈悲な喪失を経験した青岸は、過去にとらわれつつ調査を始めるが、そんな彼を嘲笑うかのように事件は続く。犯人はなぜ、そしてどのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の新鋭による、孤島×館の本格ミステリ

 

 

いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら

いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら (MF文庫J)

 

永菜先生がスニーカー文庫だけでなく、MF文庫からも出すなら読むしかない。

ラノベに限らず小説家の物語でした。

小説家を目指している人にはたまらなく刺さるだろうし、目指しいない人でも手に汗握る展開が伝わるようになっていました。

小説家を目指す、今と小説家になった、未来。

交差していく構成なので読みながらいったい主人公・海人とライバル・浩太のどっちが先輩である朱音の隣に立つようになるのかが気になって仕方なかったです。

生きながらも死んでいた海斗が朱音と出会えて、小説を書く喜びを知り、浩太と競い合うように成長していく過程も良い。

海人と浩太の男臭い友情や青春には心が揺れるものがありました。

 

書きたいこと、書くべきもの。

創作について回ることも追求して、悩みながらも答えを見つけるというのも良かったです。

 

上手くいっていたら、落とし穴が待っている。

だが、絶望があれば希望もある。

過酷な現実に海人は打ちひしがれながらも、創作仲間達の支えや、ある声に救われる展開は惹きつけられます。

 

クライマックスの種明かしに驚きつつ、小説家という戦場で見せる成長譚は見事でした!

 

読み終えた後にも胸の中に作品の熱さが残るようでした。

 

小説が好きな人に届いてほしい物語がここにあります。

 

(あらすじ)

青春の全てを捧げた、小説の世界は――戦場だった。 

柊海人の日常は全てが灰色だった。可愛い妹と何かと気に入らないことがあればすぐに激昂してしまう父。アンバランスな家庭を守るため、アルバイトに明け暮れ、将来のことなんて考えられなかった。 
天谷浩太の日常は全てが虹色だった。幼いころから欲しいものは何でも与えられ、何をしたって上手くいった。そんな二人に文芸部部長・神楽坂朱音は小説の世界の素晴らしさを説いた。そして、囁く 
「君たちのどちらかがプロデビューして、私を奪って欲しい――」 
いびつな関係の3人が小説という名の戦場に出揃うとき、物語は動き出す。小説に魅せられた少年少女が贈る、本物の青春創作活劇!

 

スパイ教室03 《忘我》のアネット

スパイ教室03 《忘我》のアネット (富士見ファンタジア文庫)

 

前巻の裏側に起こったこと。

前巻の謎の引きで、えっ?何が起こった?と思わせといて、あっさり始まっていく。

次第になぜ不穏な空気が流れていたのかを知る。

物語の構成、読者を騙すという仕掛けに関しては当たり前の様に巧みに行われていて、ただ読み進めるだけでは解き明かせないようになっている。

そういう意味では表紙のアネットの本音に関してはやられたなと。

メンバーが癖者だらけで、1.2巻では前で目立たなかった娘達だから地味な話になるのかなとも思いましたが、そんな不安を吹っ飛ばす面白さでした。

スパイ活動の危うさや末路についての非常さが増してきて、どんどん作品に深みが出てきて魅力が上がっていきました。

これからはスリルがさらに上がっていきそうです。

騙し騙されの世界で生き抜いていくとは、どういうことか。

盛り上がってきました。

 

癖者達をまとめるティアは大変さを学び、だけど上を目指していきそうですね。

情に徹しようとするが甘さが残るモニカは戸惑いながらも仲間を信じていきそうです。

 

アネットと母の結末は最高にセンスがあるものでした。

悪にはさらなる悪を。

好きすぎてたまらないです。

 

次巻は全員揃い踏みということで、楽しみすぎますね。

 

 

 

(あらすじ)

失踪した4人の少女。最悪の結末は――。 

暗殺者《屍》の任務後、選抜組の少女たちが出会ったのは、記憶喪失で出自不明の少女――アネットの母。感動の再会に盛り上がる一同だが、それはチームを分断する残酷な運命のはじまりだった。

 

 

あなたが心置きなく死ぬための簡単なお仕事。

あなたが心置きなく死ぬための簡単なお仕事。 (角川文庫)


死ぬ前にやり残したことを請け負い、手伝っていく。大人の2人組だからこそ、やり残したことの依頼に潜んでいる想いを拾えたんだと思います。なぜ、その依頼をしたのかまでも求めていくのが良いですね。

主人公のテルは最初は冷めていたが、すずと働いていくうちに依頼者に寄り添うようになっていくのは大切な気持ちに触れていくからこそなんだろう。

死ぬ人やその近くの人、一筋縄ではいかない感情の行き場を見つけるのは大変です。


ところどころにすずの伏線があったが、やはりというような展開が終盤に待っていました。分かっていても目頭が熱くなりました。作品を読んでいて、テルとすずのやりとりや関係が好きだったからこそ、胸に刺さり、心揺れました。


確かにすずは幸せなんだろうけど、テルは…

それでも生きていくしかない。

テルがすずに関わって、大切なものを預かった。きっとこれからも大丈夫なんだと信じます。



(あらすじ)

なんでも屋から「やり残し請け負い屋」に転身した青年テル。個性的な服装と独特な性格のWEBコンサル女子、木崎すずの手助けもあり、業績は右肩上がりだ。50年以上前の恋人の庭に、今何の花が咲いているか調べてほしい老婦人。余命僅かのため、うまく別れたいと願う夫婦。記憶喪失になった美女の、破られた日記…。一方、テル自身にも差出人不明の依頼が届く。謎解きの果て、優しい涙が止まらない、人生をやり直せる物語。


僕が電話をかけていた場所

僕が電話をかけていた場所 (メディアワークス文庫)

 

君が電話をかけていた場所で撒かれていた伏線を回収して、終わりに向かっていくので身体に重たくのしかかってくるような重厚感がありました。その分、読み応えはバッチリ。

 

奇妙な四角関係になり、陽介が揺れるのは分かる。自分の大切な人が別の方向を向いていて、場の空気を壊さないようにするのは辛い。

千草も複雑なポジションにいて、報われない立ち位置でした。

陽介を思っているが、陽介は…みたいな。

だか、最後に明かされた千草が秘めていた想いは確かに響くものがありました。

 

そして、陽介と初鹿野の関係の行方ですが、陽介がある嘘をついたことで取り返しのつかないことをしてからは、悪い方向に傾くんじゃないかと思いましたし、初鹿野の過去が明らかになり、絶望に埋め尽くされていたが、そこから一転。

気持ちがすれ違っていたり、思い込みで噛み合わなかっただけで、本当は互いを考えていたというのが分かって、美しいとさえ思いました。

真相を知った時は良い意味で腰が抜けたというか、全身から力が抜けました笑

 

不器用な陽介と初鹿野が幸せを掴んだんだから、これからは手を離さないで欲しいですね。

 

最初はビターな感じで終わるかと思いきや、良い余韻が残る最後で、良かったです。

 

 

(あらすじ)

ずっと、思っていた。この醜い痣さえなければ、初鹿野唯の心を射止めることができるかもしれないのに、と。「電話の女」の持ちかけた賭けに乗ったことで、僕の顔の痣は消えた。理想の姿を手に入れた僕は、その夜初鹿野と再会を果たす。しかし皮肉なことに、三年ぶりに再会した彼女の顔には、昨日までの僕と瓜二つの醜い痣があった。途方に暮れる僕に、電話の女は言う。このまま初鹿野の心を動かせなければ賭けは僕の負けとなり、そのとき僕は『人魚姫』と同じ結末を辿ることになるのだ、と。